- 2023年3月24日
お酢は透明?
MIKURAVinegaryに勤めているスタッフのまかねさんを紹介します。
私がお酢の会社に関わることになった2015年6月の約半年前に、MIKURAに就職してくれた、もちろん中途採用、キャリアはいろいろ重ねど今までお酢の醸造などしたことのない素人。短い間一緒に過ごした先輩が残した少しの資料と経験と。そして新しい経営者にいきなり「まかねさん主任やって」と辞令をもらう。米から麹をつくる仕込みの時期にはストレスで熱を出したこともあったね。会社からの指示でほとんど過去のやり方は断ち切ろうと。私とまかねさんは、本当に未経験の中で、手探りでお酢をつくる。お酢を売る。ことを考えてきました。どうしたらお酢ができるのか。どうしたら強い菌に育つのか。まかねさんはたくさん本を読んで研究してくれました。
私の住まいのある(本社)四日市市から180km離れた御浜町に出勤するのは本当に時々です。普段は製造スタッフに任せています。信頼はしているものの、どんな気持ちで仕事をしてくれているのか案じることもあります。あるとき御浜町に到着して作業を見つめていて「この仕事は明後日にします。明日は雨なので」と言ったことがありました。明後日に作業する理由が、「だってお天気の方が気持ちいいから」とまかねさんは言いました。少し前であれば私は「雨だからこれは作業しない」なんて理由にならないわ!と激しく怒ったかもしれません。しかし、いろんな時間をこの会社で過ごし、わかったことがあります。そうなんです。作業する人の気持ちは桶の中のお酢にも伝わるということが。微生物は生き物です。酢酸菌(群)は生きています。人間の体温を感じているし、人の話す声を聞いています。こんなふうに文字にすると、ちょっとオカルトチックに感じるかもしれません。ですが、多分、これは真実です。職人が機嫌がいいと、お酢にもそれは伝わります。ありがとう。と木桶を触ると、本当に不思議なことに酢酸醗酵が進みます。醗酵している液体の温度が上がります。酢酸醗酵の元気がない日に、明日は加熱するかも、と言って扉を閉める前に「今日もありがとう。明日もお願いね」と言って木桶を撫でて、翌日(気温の変化は夜に一度下がるわけです)私の目の前で温度計が4度も上がっているのを見たときは、本当に我が子を抱きしめる気持ちになりました。ありがとう。は伝わります。だから、あまり機嫌の悪い顔をしていてはいけないな、と本当に真剣に思うようになりました。人にもお酢にも優しくしたいと思います。スタッフもそう祈っているはずです。
バラ園やお酒や醤油の蔵でもシューベルトを聴かせると聞いたことがあります。生きているものには聴き取る能力があります。そして温度を感じています。
研究熱心なまかねさんは、販売スタッフに対しても、お客様に尋ねられるときの質問にも、一緒になって考えてくれます。
販売の現場で、少し困ることがあります。それはお酢が生きているために、どうしても発生する「おり」や「固形化」する成分があるということです。
社内で回ってきた書面なのですが。みなさんにも読んで頂きたいな、と思い。ブログに披露することにしました。
お酢は透明?
玄米酢や酒粕酢に限らず、どのお酢も酒(アルコール)からできています。
どの酒でもお酢でも醗酵直後はたいてい濁っています。しかし店頭に並んでいる清酒やお酢のほとんどの商品は濁りがありません。例外的なのは、にごり酒や無濾過のお酢として売られている物くらいでしょうか。
ではなぜ濁りがないかというと、清澄化処理されているからです。
お酢の製造方法はいろいろありますが、MIKURA Vinegaryでは、玄米の糠の部分や酒粕は酢酸菌が醗酵をするときの栄養源になるので(酒粕)も一緒に木桶に入れて酢酸醗酵し、酢酸醗酵後は(酒粕)は不要となり、醗酵直後にまず滓引きをして濾過して(酒粕)を取り除きます。この酒粕は目に見えるくらいの大きさなので取り除くのはそこまで難しくありません。
問題なのは肉眼では確認できないものの濁りの原因となっている浮遊物で、タンパク質成分などです。これらは濾過では除去しきれません。また熱変化に弱い特徴があり、充填直前に加熱殺菌して澄んだ酢に見えても、いつの間にか濁ったり沈殿物が出たりする可能性があります。
清澄化処理の目的はまず何といっても濁りのもとになる不純物を取り除くことです。
濁りがあると誤解を招くからです。
すでに多くのお酢が清澄化処理されて流通している以上、消費者はお酢とは透明な物だと認識しています。そのため少しでも濁っていると、何かしらの劣化ではないかと疑ってしまいます。返品のクレームが来てしまうかもしれません。
クレームまでいかなくても、濁ったお酢は使う人に低品質や不完全品の印象を与えかねません。お酢は香りや味わいを楽しむものですが、濁りや沈殿物は見た目にネガティブな印象を与えるのでしょう。
しかし、清澄化処理することで、そのお酢の持つ細やかな味わいや香りが損なわれる一面もあります。
せっかく昔ながらの方法で木桶で時間をかけて丁寧に酢酸醗酵させた芳醇な味わいのあるお酢を見た目を優先するあまり、損なってしまったのでは本末転倒です。
作り手としては、できる限りお酢本来の味わいや香りを損なわないようにしたいと思い、ぎりぎり濁っていない状態でお客様に提供したいと考えています。
ここ最近は、お酢本来の味わいや香りを損なわないメリットを踏まえて、敢えて清澄化をしないお酢もあります。事実、「無濾過」とか「非加熱」という表記をラベルに見かけるようになりました。確かに日本酒の濁り酒は透明な日本酒にはない美味しさがあります。
しかしそれらの「無濾過」とか「非加熱」という言葉は意味が分からない可能性もあります。さらには清澄化処理をしてもしなくてもラベルには一切表記がない可能性もあります。基本的には法律上、表記する義務がありません。
そうなるとにごりや沈殿物のあるお酢が誤解されないためには、その魅力に納得している人にだけ購入できるようにするか、あるいは口頭でそれを説明する必要があります。
生きたお酢は生鮮食品です。時間と共に変化していきます。
また、清澄化処理にはアレルゲンの問題も考えないといけません。基本的には清澄化処理に使用する清澄剤は濾過するので最終製品のお酢に残りません。しかし清澄剤によってはほんのわずかでも残っていると、敏感な人にはアレルギー反応を起こすリスクがあるとして、EUでは一部条件下で表記義務があります。
零細の食酢醸造事業者にとって、アレルゲンの化学分析はコスト負担があることから、意に反して違う目的で清澄化処理をしない事業者もあります。
最近ではヴィーガン向けのお酢も作られるようになってきました。ヴィーガン認証を受けるお酢もあります。ヴィーガンとはただの菜食主義ではなく、その食品が製造される過程で一切の動物性の原材料が使用されていないものしか口にしない人たちのことです。
お酢においては動物性の清澄剤が使用されていないことがヴィーガンの条件の一つです。ヴィーガン向け清澄剤ではベントナイト、植物性のゼラチン、活性炭、シリカゾルなどが対象となります。
なおヴィーガンの条件としては、畑仕事に馬や牛を活用しない、土壌に貝殻などの動物性のものを散布しないなど、他にもいくつかあります。
今後は清澄化はお酢の見た目や味わい以外の側面で活発な議論がされることになるのでしょうか。
お酢の魅力を発見する楽しみを色々な角度から試してみるのも面白いですね。